大阪地方裁判所 平成9年(ワ)4686号 判決 1998年5月29日
原告
近藤順子
被告
片岡孝一郎
主文
一 被告は、原告に対し、金九七五万七四四九円及びこれに対する平成四年八月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一二〇八万八一七一円及びこれに対する平成四年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(本件事故)
(一) 日時 平成四年八月二五日午前〇時五〇分ころ
(二) 場所 大阪府茨木市南春日丘一丁目一〇番三六号
(三) 事故車両 (1) 矢口穂高(以下「矢口」という。)運転の普通乗用自動車(名古屋七二そ六〇八〇)(以下「原告車両」という。)
(2) 被告運転の普通乗用自動車(大阪五二ろ九九九三)(以下「被告車両」という。)
(四) 態様 被告は、前記日時場所において、被告車両を西から東へ運転中、センターラインを越えて対向車線(二車線)の南側車線に進入し、折から直進中の矢口運転の原告車両に衝突させ、同乗中の原告に、顔面打撲及び挫滅創、上歯欠損、頸部捻挫、右第二ないし第四中足骨骨折、右第四、第五趾間裂創、左膝打撲及び裂創、右第一趾末節骨骨折、右第一趾IP関節内骨折、右尺骨茎状突起骨折、頭部・肩打撲の傷害を負わせたものである。
2(責任)
被告は、被告車両の保有者であり、自己のために被告車両を運行の用に供する者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告の本件事故による損害を賠償すべき責任がある。
3(治療経過、後遺障害)
(一) 原告は、本件事故による負傷のため、次のとおりの治療を受けた。
(1) 茨木医誠会病院
平成四年八月二五日から同年九月二六日まで入院(三三日間)
平成八年九月三日(症状固定日)
(2) 新生会第一病院
平成四年九月二八日から同年一〇月二八日まで入院(三一日間)
平成四年一〇月二九日から同年一二月五日まで通院(実通院日数五日)
(3) 名古屋大学医学部附属病院(形成外科)
平成四年一〇月二〇日から平成五年四月五日まで通院(実通院日数七日)
(4) 名古屋大学医学部附属病院(歯科口腔外科)
平成四年一〇月二日から平成五年三月一九日まで通院(実通院日数一七日)
(5) 名古屋矯正歯科診療所
平成五年三月二二日から同年六月二二日まで通院(実通院日数三日)
平成五年一〇月一五日通院
(6) 大阪大学歯学部附属病院(外科)
平成四年八月三一日から平成五年七月一三日まで通院(実通院日数四日)
(7) 梶口歯科クリニック
平成五年一〇月二三日から平成六年七月三〇日まで通院(実通院日数二〇日)
(8) 藤井歯科医院
平成八年三月二六日から同年一一月一二日まで通院(実通院日数二〇日)
(二) 原告は、本件事故により、咀嚼不全、顎関節障害、開口障害、顔面醜状等の後遺障害を負い、自賠責保険においては、顔面醜状に当たるとして、後遺障害等級一二級一四号に該当すると認定された。
4(損害)
(一) 治療費(自己負担分) 九万五〇一〇円
治療費の総額は、次のとおり二五七万九二二五円であるが、そのうち梶口歯科の治療費の九万五〇一〇円は原告において支払っている(その余は被告の任意保険により支払済みである。)。
(1) 茨木医誠会病院 一一二万三一七〇円
(2) 新生会第一病院 一〇六万二八〇九円
(3) 名古屋大学医学附属病院(形成外科) 五四九五円
(4) 名古屋大学医学部附属病院(歯科口腔外科) 一万三五八〇円
(5) 名古屋矯正歯科診療所 六万〇八六〇円
(6) 大阪大学歯学部附属病院 二万一四四一円
(7) 梶口歯科クリニック 二九万一八七〇円(うち九万五〇一〇円を自己負担)
自己負担分 九万五〇一〇円
任意保険支払分 二四八万四二一五円
(二) 傷害慰謝料 一五〇万円
(三) 後遺障害慰謝料 二五〇万円
(四) 逸失利益 九〇一万五六六一円
二三歳女子の平均賃金に基づく六七歳までの一四パーセントの労働能力喪失率により計算すると、次のとおり、九〇一万五六六一円となる。
280万9300円×0.14×22.923=901万5661円
(五) 文書料 一万七五〇〇円
(六) 弁護士費用 一二〇万円
(七) 以上合計一四三二万八一七一円
よって、原告は被告に対し、自動車損害賠償保障法三条による損害賠償として、受領済みの自賠責保険金二二四万円を控除した金一二〇八万八一七一円及びこれに対する本件事故の日である平成四年八月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
なお、矢口は、無免許で原告車両を運転していたものである。
2 同2は認める。
3 同3のうち、原告に対し自賠責保険において一二級一四号の後遺障害等級が認定されたことは認め、その余は知らないないし争う。
4 同4は争う。
三 抗弁
1(好意同乗・過失相殺)
(一)(1) 本件事故は、被告が割込車を避けるため、ハンドルを右へ転把して、対向車線に侵入したため発生した事故であるところ、被告が右理由により対向車線に侵入した地点は、別紙現場見取図の<2>地点であって、右<2>地点から衝突地点である<×>地点までは二一・一メートルある。
(2) これに対し矢口は、同図面の<ア>地点から<イ>地点まで走行しているところ、右距離は、少なくとも二〇メートルはある。
(3) 右距離の合計は、約四〇メートルを超えるところ、矢口が無免許者でなければ、本件事故を回避し得たと考えられるから、矢口には、無免許運転の他、前方不注視、事故回避不適切な運行のあったことが明らかである。
(二) 原告は、矢口が無免許運転をしていることを知りながら、同人とドライブを楽しんでいたところ、本件事故は、その際に発生した事故である。
(三) 以上から、四割の過失相殺を主張する。
(四) 原告には割合的な共同運行供用者責任が存することについて
(1) 原告は、名古屋を出発して、自分一人で原告車両を運転するつもりでいたが、運転に疲れたため、予定外の行動として矢口に運転を代わってもらったもので、本来矢口は同乗者のはずであった。
(2) 右のとおりであり、原告が矢口の運行を実質的に支配していた立場であり、かつ、その利益の帰属者であったものであるから、原告は共同運行供用者といえ、少なくとも、全損害額の四割の責任を負担すべきである。
(五) シートベルトをしていなかったことについて
(1) 原告は、本件事故当時シートベルトをしていなかった。
(2) 原告が本件事故により受けた傷害は、原告がシートベルトをしていなかったために発生し、かつ、拡大したと考えられるほか、仮に原告に主張の後遺障害は存するとしても、右後遺障害は原告がシートベルトをしていなかったことにより発生したものである。
(六) 右と矢口が無免許であることを知っていたことからすると、四割の過失相殺をすべきである。
2(損害填補)
原告は、本件事故の損害賠償として、次のとおりの支払を受けた。
(一) 自賠責保険金 二二四万円
(二) 治療費
茨木医誠会病院 一一二万三一七〇円
新生会第一病院 一〇六万二八〇九円
大阪大学歯学部附属病院 二万一四四一円
名古屋大学医学部附属病院 一万九〇七五円
名古屋矯正歯科診療所 六万〇八六〇円
梶口歯科クリニック 一九万六八六〇円
(三) 文書料
茨木医誠会病院 五〇六〇円
新生会第一病院 一万二三六〇円
(四) 家政婦代 一七万三〇四〇円
(五) 休業損害 二二万五七二六円
(六) 交通費・雑費 五七万八六四四円
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
(一) 好意同乗について
好意同乗による減額主張は、本来、運転者に対する同乗者の請求は、その同乗の経緯如何によって制限されるべきではないかという議論から成り立っているもので、本件事故では全くその適用の余地がないもので、被告の主張はそれ自体失当である。
(二) 過失相殺について
原告が同乗していた原告車両の運転者たる矢口は、当時免許を持たずに運転していたのであるが、被告は、センターラインを越えて更に左側の車線を走行していた原告車両に相当の速度で衝突しており、免許を持っていれば回避できたとか、無免許だから回避できなかったという問題ではなく、無免許運転自体と本件事故の発生とは全く因果関係がない。
更に、原告は、矢口が無免許であることを知らないで同乗していたのであり、結局、被告の過失相殺の主張は理由がない。
2 同2のうち、自賠責保険金二二四万円の支払は認め、その余は知らない。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。
二 請求原因3(治療経過、後遺障害)について
1 原告について自賠責保険後遺障害等級一二級一四号(女子の外貌に醜状を残すもの)の認定がなされていることは当事者間に争いがない。
2 証拠(甲二ないし四の各1、五ないし七、一五ないし一八、一九の1、2、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故により請求原因3(一)記載のとおり入通院治療を受けたことが認められる。
3 証拠(甲一六、一七、原告本人)によれば、原告には、本件事故による負傷のために、顔面に瘢痕(長さ二センチメートルのものが四か所、一センチメートルのものが三か所)、左下肢に瘢痕(長さ七センチメートル)、左側臼歯咀嚼不全の後遺障害が残ったことが認められる。
三 請求原因4(損害)について
1 治療費 二五七万九二二五円
証拠(甲八の1ないし3)によれば、原告は本件事故による負傷の治療のために梶口歯科クリニックに対し、治療費合計九万五〇一〇円を支払ったことが認められる。
右の他に、証拠(甲二の2、三の2、3、四の2、乙三、五、一四、弁論の全趣旨)によれば、本件事故による原告の負傷治療のため、次の治療費を要したことが認められる。
(1) 茨木医誠会病院 一一二万三一七〇円
(2) 新生会第一病院 一〇六万二八〇九円
(3) 名古屋大学医学部附属病院 一万九〇七五円
(4) 名古屋矯正歯科診療所 六万〇八六〇円
(5) 大阪大学歯学部附属病院 二万一四四一円
(6) 梶口歯科クリニック 一九万六八六〇円
2 傷害慰謝料 一五〇万円
前記認定の原告の入通院状況等からすると、本件事故による原告の傷害慰謝料は一五〇万円とするのは相当である。
3 後遺障害慰謝料 二二〇万円
前記認定の後遺障害の状況(後遺障害等級一二級一四号の認定がなされていることは当事者間に争いがない。)からすると、本件事故による原告の後遺障害慰謝料は二二〇万円とするのが相当である。
4 逸失利益 九〇一万五六六一円
証拠(甲二四、原告本人)によれば、原告は昭和四七年一二月一五日生の女子であることが認められ、症状固定時期は平成八年九月三日(甲一七)である。
そこで、次の計算式により原告の本件事故による逸失利益の現価は、九〇一万五六六一円(一円未満切り捨て。以下同じ。)となる。
基礎年収 二八〇万九三〇〇円(平成六年賃金センサス産業計・企業規模計・女子労働者二〇歳から二四歳)
労働能力喪失率 一四パーセント
就労可能年数 四四年
新ホフマン係数 二二・九二三
280万9300円×0.14×22.923≒901万5661円
5 文書料 一万七五〇〇円
証拠(甲九の1ないし4)によれば、原告は、診断書作成費用(文書料)として、医療法人日進会名古屋矯正歯科診療所に六一八〇円、梶口歯科クリニックに三〇〇〇円、茨木医誠会病院に八三二〇円の合計一万七五〇〇円を支払ったことが認められる。
四 抗弁1(好意同乗・過失相殺)について
1 本件事故は、衝突自動車の一方に同乗していた原告から相手方車両の運転者への損害賠償請求であって、好意同乗を考慮すべきものではなく、この点に関する被告の主張は理由がない。
2 本件事故は、前記争いのない事実(請求原因1(四))及び証拠(甲一三、一四、乙一の1、2)を総合すると、被告は時速七〇ないし八〇キロメートルで被告車両を西から東へ進行させていたところ、中央分離帯を超えて対向車線(二車線)の歩道寄り車線を時速約五〇キロメートルで東から西へ進行していた原告車両に正面衝突したというものであって(別紙現場見取図参照)、原告車両を運転していた矢口が無免許であったことが本件事故の惹起に影響を及ぼしたことを窺わせる証拠はなく、他に矢口の運転操作に注意義務違反の事実があったことを示す証拠もないから、右矢口の無免許の事実は過失相殺をすべき事情とはいえない。
3 右のとおりであり、被告の主張する割合的共同運行供用者責任との主張もその前提を欠き理由がない。
4 証拠(原告本人)によれば、原告は本件事故当時シートベルトを着用していなかったことが認められ、前記認定のとおり原告の傷害及び後遺障害の主要部分は顔面、頭部にあることからすれば、右事情は被告の過失として考慮すべきであり、その割合は一割とするのが相当である。
五 抗弁2(損害填補)について
1 前記三で認定の損害額の合計は、一五三一万二三八六円である。
2 右の他に、証拠(甲一七、乙四、七、一四、一五、弁論の全趣旨)によれば、原告は本件事故により、次の損害を被ったことが認められる。
(一) 文書料 一万七四二〇円
茨木医誠会病院 五〇六〇円
新生会第一病院 一万二三六〇円
(二) 家政婦代 一七万三〇四〇円
(三) 休業損害 二二万五七二六円
(四) 交通費・雑費 五七万八六四四円
(五) 合計九九万四八三〇円
3 以上原告の損害額を合計すると一六三〇万七二一六円となる。
4 右金額から前記認定判断のとおり一割を過失相殺すると、残額は一四六七万六四九四円となる。
5 自賠責保険金二二四万円が支払われていることは当事者間に争いがなく、証拠(乙三ないし七、一四、弁論の全趣旨)によれば、抗弁2(二)ないし(六)記載の支払(合計三四七万九〇四五円)がなされたことが認められる。
したがって、支払額は合計五七一万九〇四五円となる。
6 前記一四六七万六四九四円から右五七一万九〇四五円を控除すると、八九五万七四四九円となる。
六 弁護士費用(請求原因4(六)) 八〇万円
本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用は八〇万円が相当である。
七 以上の次第で、原告の本訴請求は、金九七五万七四四九円及びこれに対する本件事故の日である平成四年八月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉波佳希)
別紙現場見取図